かあさんは雨女

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スペイン語名曲解説 "Moliendo café"(邦題:『コーヒー・ルンバ』)

こんにちは。語学大好きかあさん、マミです。

当ブログでは毎週、英語アニメ「ミッフィーのぼうけん」のディクテーション&文法解説をお送りしているのですが、今月からはこれまで放送したエピソードを再放送するようですね。先週日曜放映の「ミッフィーとみずたまり」及び今週放送の「ミッフィー はたけをつくる」は既にディクテーション済みですので、今週は英語関連の話題はお休みとします。

 

当該エピソードのディクテーションを参照したい方は、こちらの過去記事をどうぞ↓

「ミッフィーとみずたまり」

「ミッフィー はたけをつくる」

 

英語関連では他にもやりたいネタが色々とありますので、そちらも近日改めてアップする予定です。

 

今日のテーマは、スペイン語

このところ、スペイン語記事といえば「ライティング修行」一色だった当ブログですが、今回はちょっと趣向を変えてみようと思います。

(実はロシア語の大きな試験が8月に控えているので、今はライティングのエネルギーをそちらに割きたいという思いもありまして…ごにょごにょ…)

で、何をするかといいますと、今回はスペイン語の歌について、歌詞を訳しながら文法解説をしたいと思います。

 

先日、Eテレの音楽番組「ムジカ・ピッコリーノ」の特番を観ていたときのこと。

色々な国・言語の歌を取り上げて演奏する番組なのですが、その中で歌われていたスペイン語の曲が少し気になったのです。

曲名は、"Moliendo café"。日本語に訳すと「コーヒーを挽きながら」となります。

この曲、どっかで聴いたことのある曲だなーと思っていたら、日本でも1960年代に「コーヒー・ルンバ」という曲名で大ヒットしていたのですね。日本語で訳詞がつけられて西田佐知子さんが歌い、その後も井上陽水さん・荻野目洋子さん・工藤静香さんなどが続々とカバーを発表し連綿と歌いつがれてきたので、80年代生まれの私にも耳馴染みのある曲となったのでしょう。

 

ところで、この"Moliendo café"、元はベネズエラで発表された曲です。作詞・作曲はJose Manzo Perroni(ホセ・マンソ・ペローニ)という方。

歌詞の主な内容は、「南米のコーヒー農園で働く若者が、物憂げに想いを馳せながら夜通しコーヒーを挽いている情景」…というもの。

 

だがしかし!!

 

日本で発表された「コーヒー・ルンバ」の歌いだしを見てみると、

 

「昔アラブの偉いお坊さんが〜♪」

 

え? なんでアラブ??

言語も文化も違うくない??(しかも、お坊さんとは…???)

で、日本語詞をそのまま読み進めてみると、どうやら「アラブのえらいお坊さん(笑)がくれたコーヒーという不思議な飲み物のおかげで、恋を忘れた哀れな男がたちまち元気になっちゃって、すぐに彼女ができてみんなハッピー」みたいな内容でした。

訳わかんないですね。

「コーヒー」というキーワード以外、原曲のスペイン語詞(後述)と重なるところが何一つありません。

しかし、この日本語版「コーヒー・ルンバ」のクレジットを見てみると、

「詞・曲:J. M. Perroni 訳詞:中沢清二」

となっています。歌詞の内容は全く違えど、あくまでこの日本語詞は「翻訳」なのだというんですね。 

 更にいうと、この曲のリズムはルンバではなくorquidea(オルキデア)という独特のリズムで作られているので、日本語版はタイトルからして間違っているのだそう。もう何でもアリですな。

 

1960年代の日本の人々というのは、エキゾチックなものに心惹かれる一方で、ラテンアメリカアラブ諸国の違いなんてよくわかんないし、「外国」っぽければ何でもいい…というような大らかさ(?)があったのでしょうか。すぐにSNSで世界と繋がれる現代と違って、まだまだ「外国」が遠かった時代、といってもいいかもしれませんね。

 

さて、前置きがずいぶん長くなってしまいました。

名曲"Moliendo café"のスペイン語詞を吟味してみたいと思います。

様々に編曲を変えて歌いつがれてきた曲なので、歌詞の順序や細かい語彙にバリエーションがあるようなのですが、冒頭に書いたEテレの「ムジカ・ピッコリーノ」で歌われていたバージョンに沿って歌詞を載せることとします。

 

まずは歌詞と、私が辞書をひきながらつけた日本語訳をどうぞ。

 

Moliendo café(コーヒーを挽きながら)

Cuando la tarde languidece renacen las sombras
(夜が深まり 闇が再びせまり来る頃)

Y en la quietud de los cafetales vuelven a sentir
(コーヒー農園の静寂のなか 今夜も響いてくる)

El son tristón, canción de amor de la vieja molienda
(哀しげな音、古いコーヒーミルがうたう愛の歌)

Que en el letargo de la noche parece decir
(夜のまどろみの中で、訴えかけてくるような)

 

Una pena de amor, una tristeza
(愛の苦悩と哀しみ)

Lleva el zambo Manuel en su amargura
(サンボのマヌエルが胸に抱く悲嘆)

Pasa incansable la noche, moliendo café
(夜は疲れを知らず更けていく、コーヒーを挽きながら)

 

改めて、日本語詞とは全く違う、そこはかとなく切なげでアンニュイな歌詞だなあ。

日本語訳は私のセンスでつけましたが、歌詞の受け取り方によって様々な解釈ができそうですね。

 

では、細かく見ていきましょう。

まずタイトルですが、"moliendo"は動詞"moler"〈挽く、細かく砕く〉の現在分詞形。

現在分詞は「他の動作と同時に行われる行為」を表すという用法があるので、"moliendo café"で〈コーヒーを挽きながら〉何か他のことに想いをはせる主人公の姿が浮かび上がる、そんなタイトルになっています。

 

では、歌詞の最初の二行から。

 

Cuando la tarde languidece renacen las sombras

Y en la quietud de los cafetales vuelven a sentir

 

"la tarde"は〈午後、夕方〉を表す名詞。だいたい午後3時〜9時くらいを指すようです。

続いて"languidece"は動詞"languidecer"〈衰弱する、元気がなくなる〉の三人称単数形。主語は先ほどの"la tarde"です。

午後が衰弱する、とは何ぞや? と思ってしまいますが、これは「夜が深まっていき、昼間の活力が遠ざかっていくこと」を示していると思われます。夜の入り口に立っているような感じですね。

 

そして、そんな〈午後が衰弱するとき〉に何が起こるのか? が、次です。

"renacen"は動詞"renacer"〈生き返る、よみがえる〉の三人称複数形。"nacer"が〈産まれる〉なので、頭にre-がついて〈再び産まれる〉となるわけです。

"las sombras"は名詞(複数形)で〈影、闇〉。上の"renacen"の主語です。

毎日毎日、日が暮れては夜が明けるというサイクルが飽きることなく繰り返され、今夜もまた暗闇が深まっていく…という意味で"renacer"が使われています。

つまり、この一行は〈夜が深まるとともに、今日もまた闇が生まれる〉という意味になります。

 

「夜が深まっていく」ことを表現するのに"languidecer"という動詞を使ったり、闇が迫り来る様子が強調されていたりするこの歌いだし、気だるげなイントロと相まって、独特の暗鬱な雰囲気が醸し出されていますね。

 

続いて二行目。

"la quietud"は〈平穏、静けさ〉。

"los cafetales"は複数形で〈コーヒー農園〉です。

"vuelven"は動詞"volver"の三人称複数形。主語は次のパッセージにあります。

"volver a..."で〈再び〜する〉という意味になるので、"vuelven a sentir"で〈再び感じられる〉くらいの意味でしょうか。

 

〈コーヒー農園の静けさの中で、今日もまた感じられる(聞こえてくる?)のは…〉一体何なのか? 答えは、次の二行にあります。

 

El son tristón, canción de amor de la vieja molienda
Que en el letargo de la noche parece decir

 

三行目。

"el son"は〈音〉。音楽的な〈音色〉のようなものをさす名詞です。

"tristón"は形容詞で〈哀しげな、寂しがり屋の〉。

"canción de amor"は〈愛の歌〉ですね。名詞なのに無冠詞なのが気になりますが、上の形容詞"tristón"に合わせて形容詞的に使われているのかしら。

"vieja"は〈古い〉という意味の形容詞"viejo"が、"molienda"〈(豆や粉を)挽くこと、製粉〉に合わせて女性形になっています。

"molienda"は"moler"が形式的に名詞になった語ですが、ここではどうやら「コーヒーミル」という具体的なものを指して使われているようです。

ということは、この行は〈古いコーヒーミルがたてる、哀しげな愛の歌〉という意味。

 

続いて四行目。

"que"で前の行と結ばれているので、〈コーヒーミルがたてる音〉について補足的に説明する内容となります。

"el letargo"は〈麻痺状態、無気力、休眠〉。"de la noche"と続くので〈深夜のまどろみ〉くらいの意味でしょうか。

"parece"は動詞"parecer"〈〜ように見える〉の三人称単数形なので、 "parece decir"で〈言っているように見える〉。

"decir"は〈物語る〉や〈主張する〉といった意味も含まれる動詞なので、ここでは〈(古いコーヒーミルが)何か訴えかけているように感じられる〉というようなニュアンスでしょうか。

つまり、この行は〈(そのコーヒーミルの音は、)深夜のまどろみの中で、何かを訴えかけてくるようだ〉という意味になります。

 

ガリガリとコーヒーを挽いているのはもちろん人間なのでしょうが、それを「コーヒーを挽く音が物語るもの」と表現しているところが、なんとも詩的ですね。

さて、最後のパッセージです。コーヒーを挽いている主人公が、ここでようやく登場します。

 

Una pena de amor, una tristeza

Lleva el zambo Manuel en su amargura

Pasa incansable la noche, moliendo café


"una pena"は〈苦悩、悲嘆〉。

"una tristeza"は〈悲しみ、寂しさ〉です。

 

"lleva"は動詞"llevar"〈持つ〉の三人称単数形。主語は次の行の"el zambo Manuel"です。

"el zambo"は〈サンボ〉のこと。「ちびくろサンボ」という絵本でもおなじみのこの「サンボ」とは、黒人とインディオの混血児をさす語で、現在では差別的な意味をもつ語とされています。

 

実は、かつて中南米のコーヒー農園では、アフリカ系の人々が強制労働させられていたという暗い歴史があるのだそうです。ここに出てくる「サンボのマヌエル」という人物も、その一人なのではないか…という解釈が主流のようで、このあとに出てくる「一晩中コーヒーを挽く」という行為もそういった強制労働の一環…というふうにも読めるのだとか。

 

だとしたら、先に出てきた「愛の歌」というのも、どうやら牧歌的なラブソングという訳ではなさそう…。

続いて、"amargura"は〈苦しみ、悲嘆、苦味〉。マヌエルの抱いている苦しみということですね。

この五・六行目を合わせて、〈愛の苦悩と哀しみは、サンボのマヌエルが苦い悲嘆の中で抱いているもの〉となります。

 

そして、最終行。

"pasa"は動詞"pasar"〈過ぎる〉の三人称単数形。

"incansable"は〈疲れを知らない〉。

そして最後に"moliendo café"とタイトルのフレーズが登場します。

つまり、〈夜は疲れることなくますます更けていく、コーヒーを挽きながら〉となります。

 

"incansable"という語の主語は、文法的には"Manuel"なのでしょうが、ここでは「マヌエルの疲れなど関係なしに、夜は無情にも更けていく」というようなニュアンスが感じられるように思います。

そうなると、コーヒーを挽いているのは果たしてマヌエルの手なのか、それともマヌエルの手を「夜」という巨大で陰鬱な何かが支配して、そこから苦い香りを放つコーヒーの粉がとめどなく生み出されていくのか…。

ひょっとして、コーヒーミルが挽いているのはコーヒー豆なんかじゃなくて、マヌエルという青年の心を粉々に挽き砕こうとしているのではないか…?

という深読みもできてしまって、妄想が止まらない私…! いったん落ち着け!!

 

 

原曲では、このあとまた冒頭の"Cuando la tarde ..."というパッセージが繰り返されていきます。

何度も同じフレーズをループする構成が、夜通しコーヒーを挽かねばならない、終わらない労働の苦しみ、はたまた叶わない恋心がぐるぐると彷徨う姿とも重なるような…。

 

ここまで歌詞を見てきましたが、歴史の暗い部分を想わせるところもあって、色々と考えさせられる歌詞ですね。

サンボのマヌエルは恋をする暇もない労働の苦しみを憂いているのか、はたまた身分違いの恋に身を焦がしているのか?

それとも「愛の歌」というのは、遠く離れた故郷を想う気持ちを表現したものなのか?

ひょっとして強制労働なんてのは考え過ぎで、ただ単に好きな人を想いながらコーヒーを挽いている青年の姿を描いているだけなのかも…。

 

歌詞のなかで具体的なことはほとんど語られておらず、解釈は聴き手の想像に委ねられています。

私もこの歌詞を噛み砕くにあたって、自分一人の力ではどうしようもなかったので、この"Moliendo café"について言及しているブログやウェブサイトの記述を参考にしました。以下に参照したサイトのリンクを載せておきます。

 

コーヒー・ルンバ | ベネズエラ

旅の友・ポップス編 (397) 『コーヒー・ルンバ』 - 港町のカフェテリア 『Sentimiento-Cinema』

コーヒールンバー!? - まめ蔵 自家焙煎 下石

 

 

たった7行の詞ですが、深読みしながら味わっていたら、ずいぶんと長い記事になってしまいました。

今後も何かスペイン語で面白い素材を見つけたら、積極的に分析していきたいと思っております。

次のスペイン語記事は、ライティング修行を再開する予定です。

英語でもまたなんかやりますよ〜。

 

では、また近いうちにお会いしましょう。

 

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