いたずらで宣戦布告?〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ その③〜
こんにちは。
前回記事を読んだナコ太さんから、「今回は育児の小ネタ、なかったねえ」とクレームをいただきました。
そうか…楽しみにしてくれていたのか…。
まあ私が書く育児ネタって、ナコ太さんが知ってることばかりなんですけどね。(当たり前や)
というわけで、1歳になりました我らが娘、おタマ。
最近は言葉がわかってきたようなそぶりを色々と見せてくれます。
ですが、発する言葉はおおむね「パパ」。
平日昼間も、いつだって「パパ」。
パパは今お仕事がんばってるからね〜、と説明しても、私をじっと見つめて「パパ」。
ナコ太さんが傍にいようがいまいが、ずーっと「パパ」と言っております。
私と一緒にいる時間の方が長いのに…このパパっ子め…。
と、半ばいじけた気持ちでおった私ですが、先日、ナコ太さんにおタマを任せて外出したときのこと。おタマ、私が去っていった方を見て、ずっと「パパ、パパ!」と言っていたそうです。
これって、ひょっとして…。
本人は「ママ」って言ってるつもりなのだろうか?
そう考えると、私と二人のときに私を見つめて「パパ」と言っていることも腑に落ちます。
前にも書きましたが、音声学的に考えても、m音よりp音の方が出しやすいのです。つまり、本人はm音を出しているつもりでもp音になってしまう、または聴き分けができてもまだ言い分けることができない、という可能性は充分あり得ます。
あるいは、おタマの中では、私とナコ太さんを両方ひっくるめて「パパ=養育者」という構図が成り立っているのやも。
どちらにしても、私のことを無視してパパを呼びつづけている訳ではないらしい、ということがわかって一安心です。
子どもの成長のプロセスって本当におもしろいですね。
さて、前回の続きです。愛くるしい人形アニメ「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ、その3。
最初は独りぼっちだったチェブラーシカですが、ワニのゲーナ、人間の女の子ガーリャ、そして犬のトービクと、無事に友だちになることができました。
しかし、このまま「めでたしめでたし」…とは問屋が卸さず、物語は急展開(?)を迎えます。
いじわる・いたずらを趣味にしている、怪しげなシャパクリャクばあさんの登場です。
コミカルな音楽とともに、歌いながら登場するシャパクリャク。ミュージカルのようで惹き込まれますね。まあ歌詞の内容は「人助けなんか時間の無駄、いたずらしていた方がまし」というひどいものですが。まじめそうな掃除夫さんにからみながら、ちょこまかと歌って踊ります。
Кто людям помогает,(人助けをする人は)
Лишь тратит время зря, ха-ха.(時間を無駄に垂れ流すだけ、ハハハ)
Хорошими делами,(善い行いをしても)
Прославиться нельзя, ха-ха.(有名になることはできない、ハハハ)
一行目、最初のктоは、「〜する人」をさす関係代名詞です。
людямは、люди(人々、常に複数形)がпомогать(助ける)の要求で与格形になっています。合わせて「人々を助ける人」ということですね。
лишьはлить(注ぐ)の二人称単数形、тратитはтратить(むだにする)の三人称単数形(?)。зряは副詞で「不必要に」。
хорошими деламиはхорошее дело(善い行い)の複数造格形。「善い行いをもって」で次につなげます。
прославитьсяは「有名になる」。後ろにнельзя(だめだ)がくっついているので、「有名になれない」、つまり「善い行いで名声を得ることはできない」という意味になります。
Поэтому я совсем каждому советую(だから皆にはっきりとおすすめするわ)
Всё делать точно так,(皆、まさに、こういうふうにするの)
Как делает старуха(ばあさんのするように)
По кличке Шапокляк.(シャパクリャクばあさんのね)
倒置法が入ってくるので、訳がなんともぎこちないですが、ご容赦を。
каждомуはкаждыйの与格形。каждыйは「それぞれの」を意味する形容詞ですが、名詞として「それぞれの人、各人」という意味でも使うことができます。名詞でも、格変化のパターンは形容詞と同じです。
советовать(ここでは一人称単数形советую)+与格形〜(каждому)+不定形…(делать)
で、「〜に…を忠告する、勧める」という構文ですね。
では、どうすることを勧めているのか、という内容が、3行目のкак以下。
старухаは「おばあさん」、по кличкеは「〜というあだ名の」(по+кличка「あだ名」与格形)。
合わせて、「シャパクリャクと呼ばれるおばあさんのするように」、つまり私のまねをしなさいと言っているわけです。
で、歌い終わるやいなや、ゴミ箱を蹴っ飛ばしてゴミをぶちまけ、переход「横断歩道」の標識の向きを変え、パチンコを取り出してどこかのガラスを派手に割り、掲示板の張り紙にいたずら書きをするシャパクリャク。いい歳したおばあさんが、ひどいものです。が、どこか憎めないかわいらしさもあるのが不思議なところ。
細かいですが、掲示板のいたずら書きも、よ〜く見ると読めますね。
меняю、требуетсяという動詞の前に、それぞれ否定の"не"を書き加えています。
меняюはменять(変更する)の一人称単数形。требуетсяはтребовать(必要とする、要求する)の三人称単数形、英語でいうwantedのような意味でしょうか。
この両者に"не"をつけてしまったので、それぞれ「変更しません」「募集しません」という逆の意味になっちゃうわけですね。迷惑だなあ。
更に更に、シャパクリャクばあさん、ゲーナの書いた「友だち募集」の紙も目ざとく見つけ、ひっぺがして持ち去ってしまいます。
ということは、ゲーナのもとに行くつもり? 一体何が起こるのやら…。
場面は変わって、ゲーナのおうちの前です。友だちになったチェブたち御一行が、楽しそうに遊んでいます。目隠しをして鬼ごっこのようなことをしていますね。「こっちだよ〜」と呼ぶ掛け声、どうつづるのかわかりませんが、ロシア語でも「ココ〜」と言っているようでちょっとおもしろいです。
そこへ通りかかるシャパクリャク。ゲーナが友だちと間違えてシャパクリャクをつかまえちゃったりしたあと、シャパクリャクの連れているкрыса(クマネズミ)に怯えてみんな逃げてしまいますが、チェブは動じません。
※このкрысаという語、露英辞典ではmuskrat、Norway ratと出てくるのですが、字幕のクマネズミblack ratとの関係は?? 動物の専門家ではないのでわかりませんが…ま、どっちにしてもネズミを連れてるおばあさんって、なんか怖いですよね。
シャパクリャク:А... ты не боишься крыс? (あなた、クマネズミが怖くないの?)
チェブ:Нет.(怖くない。)
シャパクリャク:Темнота! Лариска, ко мне!(あきれた! ラリースカ、こっちよ!)
крысаが、бояться(怖がる)の要求で複数生格крысになっています。
темнотаという語は、辞書によると「暗闇」とのことですが…。「クマネズミが怖くないなんて、わかってないわね、視野が狭いわね、あなた」みたいなことでしょうか?
ко мнеで「私のもとへ」。こっちへ来なさい、という意味でよく使われるフレーズです。
そんな二人(一人と一匹?)の様子を、恐る恐る見守るゲーナたち。気づいたシャパクリャク、友だち募集の紙を取り出してゲーナに見せます。
シャパ:Это вы писали? (これはあなたが書いたのですか?)
ゲーナ:конечно, я.(もちろん、私ですよ。)
シャパ:Это хорошо, хорошо что вы зелёный и плоский...(これはすてき、あなた、緑色で、平たくて…)
ゲーナ:Но почему?(でも、なぜです?)
なぜか、ゲーナの緑色で平たい容姿に、大いに感動しているらしいシャパクリャク。
シャパ:Очень просто - Вы лежите на газоне, и вас не видно,
(とっても簡単よ、あなたが芝生に寝そべる、そうするとあなたは見えなくなる、)
мы бросаем кошелёк на верёвочке, прохожий нагибается,
(私たちが財布をひもにつけて投げて、通行人がしゃがむと、)
а кошелёк убегает...Здорово, а!?
(財布は逃げる…いいでしょ、え!?)
газонが「芝生」なので、лежать на газонеで「芝生に寝そべる」。
видноは「見える」の意味ですが、挿入句として「どうやら、見たところ」という意味にも使える語ですね。ゲーナは緑色で顔が平べったいので、芝生に寝そべると目立たなくなると言っています。
верёвочкеという語は恐らくверёвочкаの前置格形ですが、辞書には見当たりませんでした。代わりにверёвка(ひも、糸)という語を見つけたので、恐らくこれの指小形なのでしょう。
нагибатьсяは「しゃがむ」、通行人がкошелёк(財布)を取ろうとしてしゃがむということですね。
убегать、「走る」という意味のбегатьに「去る」の意味を加えるуがくっついて、「走り去る」となります。идтиがуйти、ходитьがуходитьになるのと同じですね。
どうやらシャパクリャクばあさん、通行人を財布で釣って遊ぶという悪趣味ないたずらに、ゲーナたちを巻き込もうとしている様子。
ゲーナ:Нет, не здорово!(いいえ、よくありません!)
ガーリャ:И даже очень глупо!(むしろ、とっても愚かよ!)
シャパ:Что!? Тогда я объявляю вам войну! Привет!
(何ですって!? それじゃあ、見てらっしゃい! ごきげんよう!)
うーん、よく言った! とばかりに、いたずら案に反対するゲーナとガーリャ。
怒ったシャパクリャクばあさん、я объявляю вам войну!と。これ、直訳すると「あなたたちに宣戦布告する」というような大仰な意味になるわけですが(войнаは「戦争」ですからね)、「私に言ったこと後悔するわよ、覚えてらっしゃい」ぐらいのニュアンスだと思います。そこまで言わなくても…と思わせるシャパクリャクばあさんの極端なキャラ造形。なんとも魅力的ですね。
さあ、啖呵を切って去っていったシャパクリャクばあさん。次は何が起こるのやら。
今日は眠たくなってきたので、このへんにしておきます。
ではまた。