最強のふたり。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第二話〉 その⑤〜
こんにちは。
日々めきめきと母語を習得中、「くるま」と何度言おうとしても「くむら」になってしまうかわいい1歳7ヵ月児を見守りつつ、自身も第二・第三・第四言語を習得せんと日々邁進中のマミです。
今回は、ソ連時代の愛くるしい人形アニメ「チェブラーシカ」DVDを使ってロシア語を学ぶシリーズの続きをお届けいたします。
短編第二作目「チェブラーシカ(邦題:ピオネールにはいりたい)」、遂に最終回です。
前回までの記事はこちら。
お誕生日には魔法を。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第二話〉 その①〜
空飛ぶチェブラーシカ。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第二話〉 その②〜
なんにもできないアイツ。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第二話〉 その③〜
第二の誕生日を祝おう。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第二話〉 その④〜
※当ブログで実施している「チェブラーシカ」プロジェクトの詳細については、こちらの記事をご覧ください。
また、短編一作目『ワニのゲーナ』の訳と解説(全6回)をご覧になりたい方は、この記事のカテゴリ「ロシア語学習」をクリックして各ページに飛んでくださいね。
広場に、子どものための遊び場を建設することにしたワニのゲーナ。業務用らしきドリルを使い、かなり本格的な「工事」をしていたようですが…。
そこへ、お役人さんらしき男性が近づいてきます。
役人:Гражданин Крокодил?(市民のワニさんですか?)
ゲーナ:Да, а что?(はい、何か?)
役人:Значит, это вы угнали компрессор?(ええと、コンプレッサを持ち出したのはあなたですね?)
ゲーナ:Да. Это я его угнал.(はい。私が持ち出しました。)
役人:А как вы собирались его использовать?
(どのようにそれを使おうと思われたのですか?)
ゲーナ:А мы, мы его уже использовали.(私たちは、私たちはもう使いました。)
チェブ:Мы построили площадку для ребят.(子どもたちのための広場を建てたんだよ。)
гражданинは「市民」。ソ連社会における一般市民もこの用語で呼ばれていたようです。Крокодилは「ワニ」という一般名詞でもありますが、ここではゲーナの名字のように扱われていますね。
突然、お役人さんに名前を確認されて、戸惑うゲーナ。
значитは「意味する」という意味(ややこしい…)の動詞значитьの3人称単数形ですが、このように文頭にもってくると「つまり、私が言いたいのは…」と話題を切り出すときの決まり文句として使えます。
угналиは完了体動詞угнать「持ち去る、盗む」の複数形(=敬語表現)過去。компрессор「コンプレッサ」は、前回ゲーナが地面をガガガと掘っていたあの器具のことかしら、とにかく工事に使う道具ですね。угнатьという動詞、字幕では「持ち出す」となっていましたが、どちらかというと「盗っていく」というニュアンスを含む動詞であるように思います。
「私が持ち出しました」と素直に答えるゲーナ。
不完了体動詞собиралисьの不定形はсобираться、「組み立てる、〜しようとする」という意味。использоватьは「使用する」なので、"как вы собирались его использовать?"で「どのようにそれを使おうとしましたか?」となります。
実はもう使った後でして…というゲーナの台詞を引き継いで、チェブラーシカが"Мы построили площадку для ребят."と言っていますね。
построилиは、完了体動詞построитьの複数形過去で「建て終わった」。площадкуは「広場」площадкaの対格形。ребятは「子どもたち」ребята(常に複数形)が、「〜のために」を意味するдляの要求で生格になっています。
つまり、「僕たちは、子どもたちのための広場を建設しました」となるわけですね。
お役人さんが辺りを見渡してみると、いつの間にか広場が遊園地のようになっています。きちんと補強されたシーソーのみならず、砂場やメリーゴーランドのような遊具まであります。すげえなおい。
役人:Молодцы! О компрессоре не беспокойтесь - мы его доставим сами.
(すばらしい! コンプレッサのことはご心配なさらず…私どもで運んでおきますから。)
ゲーナ・チェブ:До свидания!(さようなら!)
役人:Привет!(では!)
役人さん、思わず"Молодцы!"と賛辞を贈ります。「よくやった!」という褒め言葉には"Молодец!"という表現がよく使われますが、ここでは褒める対象が二人(チェブとゲーナ)なので複数形となっています。
"о компрессоре"で「コンプレッサについて」。前置詞оの要求でкомпрессорが前置格になっています。
"не беспокойтесь"は「心配する」という意味の動詞беспокойтьсяの複数命令形に否定辞がついて「心配しないで」という意味。「大丈夫、まかせといて」と相手を安心させたいときによく使われる決まり文句ですね。
доставимは完了体動詞доставить「運ぶ」の一人称複数形。самиは「〜自身」という意味のсамが複数形になっています。「私たちで運んでおきますので」とお役人さんは言いたいのですね。
子どものための遊び場をたった二人で建設してしまったチェブとゲーナに、いたく感銘を受けた様子のお役人さん。そのままゴキゲンで退場していきます。
努力を認めてもらえて、嬉しそうなチェブとゲーナ。
そこへピオネールの少年たちが、何やら看板を掲げて行進していくのを見かけます。
チェブ:"Всё не нужное на слом, соберём металлолом."
(スクラップで要らなくなった金属すべて、集めています)
нужноеは形容詞нужный「必要な」の中性形なので、Всё не нужноеで「要らないもの全部」。на сломは「スクラップで、破壊されて」という意味。
соберёмは「集める」という意味の動詞собратьの一人称複数形。
металлоломは「金属のスクラップ」というような意味の名詞なので、少年たちは「スクラップになって不要となった金属を集めています」と言いたいわけです。
ピオネールの活動として、こういうリサイクル事業みたいなことをやっているのですね。
これはソ連の国力増強のためにやっているのか、それとも、単に環境保護的な目的でやっているのか…。何となく時代背景(この作品が作られたのは、東西冷戦真っ盛りの1970年代)を考えると、裏にきな臭い事情が隠れているような気もしてきますが…?
まあ、こどものアニメなので、深く考えるのはやめておこう。
ゲーナ:Чебурашка, я знаю одно место, там столько металлолома!
(チェブラーシカ、僕ある場所を知ってるよ、そこには金属がたくさんあるんだ!)
столькоは「たくさんの」という意味。生格を要求するので、металлоломаと生格形が続いています。
何やら自信満々のゲーナ、チェブを引き連れて港の埠頭(?)のようなところにやってきます。
ところでこれは海なのか、それとも運河か何か…? チェブラーシカの物語はどの都市が舞台となっているのか、調べてもはっきりしなかったのですが、ペテルブルクからならバルト海が臨めるはず…。それとも湖? 黒海? まさか北極海ではあるまいな??
まあ、とりあえず海ということにしておきましょう。
さて、こんなところで一体何をするつもり…? とゲーナを見守っていると、彼は躊躇なく海に潜っていきます。さすがワニ…!(でもワニが泳げる場所ということは、やっぱり海ではなく淡水なのかしら?)
ほどなくして、水底からくず鉄を引き揚げてくるゲーナ。
なるほど、海に棄てられたゴミを集めているのですね。
ところが、再び海に潜ったゲーナが、なかなか上がってきません。だんだん心配になってきたチェブ…!
チェブ: Ой, наверно, придётся за ним нырять, а я никогда не плавал.
(わあ、たぶん、彼のために(助けに)飛び込まなきゃ、でもぼく、泳いだことない。)
придётсяは「〜せねばならない」という意味の動詞прийтисьの三人称単数形。
за нимは、за+造格の形で「彼のために」。
нырятьは「飛び込む」という意味の動詞。
ここでは、三人称単数形が使われているので、チェブラーシカがせねばならないというより「そうしなきゃならないんだろうな…」と一般論を述べているのだと思います。
"никогда не..."に動詞の過去形を接続して「〜したことがない」となるので、ここでは плавать(泳ぐ)したことがない、となります。
つまり、ゲーナが溺れているとすれば助けてあげなきゃ、でも自分の出自すらわからないチェブには、自身に泳ぐ能力があるのかどうかもはっきりせず、飛び込む踏ん切りがつかない…と迷っているのですね。
ゲーナ:Чебурашка! Ну что стоить! Помогай! Давай заноси.
(チェブラーシカ! 何を突っ立ってるんだ! 手伝って! 持っていくんだよ。)
チェブ:Куда?(どこへ?)
そこへ、大きなイカリを持って出てくるゲーナ。
うん、生きててよかった…と思う間もなく、チェブに何やら手伝いを要求しています。
"Ну что стоить!"は、ここでは「何をぼさっと立ってるんだ!」くらいの意味ですね。
помогайは「助ける」という意味の不完了体動詞помогатьの単数命令形。
заносиは「持っていく」という意味の不完了体動詞заноситьの単数命令形、そこにдавайがくっついて「さあ、持っていこう」と要求しています。
Куда?(どこへ?)と戸惑いながらも、手伝うチェブ。
でも、ゲーナが引っ張ってきたのは、どうやらくず鉄ではなく現役のイカリ! 後ろから大きな船が引っ張られてきちゃってますよ! そ、そんなアホな〜っ!!
チェブとゲーナの力で、なんと船とイカリをつなぐ鎖がちぎれてしまいました。なんか、すごい速さで家を建てたり公園を建てたりしてるし、実はこの二人、ものすごい怪力なんじゃあ…。
愛くるしい見た目ですが、敵にまわすと恐ろしいコンビなのかもしれません…(笑)。
さて、何食わぬ顔で大量のくず鉄(ちぎれたイカリを含む)を運び、ピオネールの少年たちのもとへ現れたチェブとゲーナ。
ゲーナ:Вот, это мы вам принесли.(ほら、これ、僕たちが君らのために持ってきたよ。)
チェブ:Мы хотели вам помочь.(君たちを手伝いたかったんだ。)
принеслиは「持ってくる」という意味の完了体動詞принестиの複数形過去。
少年たちは一瞬ポカーンとしたのち、一斉に歓喜の声を挙げます。
少年たち:Урааа!!!(やったー!)
少年1:Первое место наше(?)!(1位は僕たちのものだ!)
チェブ:Мы будем очень рады.(僕たち、とっても嬉しいよ。)
ゲーナ:До свидания.(じゃあね。)
"первое место"で「1番の、1位の」ということ。どうやら、ピオネール内の班対抗で集めたくず鉄の量を競っていたようですね。
(?)がついているところは、スクリプトサイトの記述とDVDの音声が違っていたようなのですが、何と言っているのか聴き取れませんでした。
チェブは、喜ぶ少年たちを見て"Мы будем очень рады."と言っていますね。бытьを用いた合成未来形になっているのは、「君たちが1位になったら、僕らもきっと嬉しいよ」と未来のことを言っているからなのでしょう。
見返りを求めずニコニコと去ろうとする二人を、少年たちが引き止めます。
少年1:Стойте! Мы принимаем вас в отряд.(待って! 君たちを仲間に入れるよ。)
チェブ:Нас? В отряд?(僕たちを? 仲間に?)
ゲーナ:Но мы же скворечники не сделали и маршировать не умеем?
(でも、僕ら、巣箱も作れないし行進もできないのに?)
少年1:Это не главное. Зато, вы столько хорошего сделали!
(それは大事なことじゃないよ。だって、君たちはこんなに善いことをしたんだから!)
少年2:А маршировать мы вас научим.(行進は僕たちが教えてあげるよ。)
少年1:Отряд стройся!(全体、整列!)
cтойтеは「立つ、止まる」という意味の動詞стоятьの複数命令形。
принимаемは「受け入れる」という意味の動詞приниматьの一人称複数形ですね。
"в отряд"は以前にも出てきました、「グループに、仲間に」という意味。
「仲間に入れてあげるよ!」という少年たちに、半信半疑のチェブとゲーナ。
特にゲーナは、скворечники(巣箱)も作れないし、маршировать(行進)もできないのに…と、入隊を断られたときに言われたことを気にしているようです。
ところが、リーダー格の少年は"Это не главное."と請け合います。главныйは「重要な」という意味の形容詞なので、「それは大したことじゃないよ」と言っています。
затоは「しかし、それでも」。たとえ巣箱が作れなくても、"столько хорошего"「こんなに善いことを」したんだから構わない、と言っているのですね。
続いて他の少年が「行進は教えてあげるよ」と温かい言葉をかけます。入隊と断ったときとはガラリと態度が変わりましたねー。научимは完了体動詞научить「教える」の一人称複数形です。
さっそく行進をはじめる一行。
"Отряд стройся!"は、ピオネールの行進の合図です。стройсяはстроиться「整列する」の命令形ですね。
少年1:Смирно! Вперёд шагом марш!(気をつけ! 前へ進め!)
cмирноは「静かに、注意して」なので、ここでは「気をつけ」の意味。
вперёдは「前へ」。шагомは「一歩」を意味する名詞шагの造格形で「歩いて、歩く速さで」 なので、"вперёд шагом"で「歩いて前へ進め」となります。
маршは「行進」です。「行進する」という意味の動詞маршироватьもそうですが、英語のmarchと語源が同じなのですね。
行進のときの台詞、文法的に解説しちゃいましたが、定番のフレーズとしてそのまま覚えてしまっても良さそうです。
ピオネールの後について、誇らしげに行進していくゲーナとチェブ。ゲーナはなかなか堂に入った行進をしていますが、チェブは途中で転んだり、ちょっと遅れたりと、不器用なりに一生懸命です。仲間に入れてもらえて、良かったね。
さて、大変ゆったりとしたペースでお送りしましたが、チェブラーシカの第二話も無事、これにて解説終了となりました。
短編フィルムDVDにはまだあと二話残っていますし、実は次の「シャパクリャク」というお話が私のいちばんのお気に入りだったりしますので、まだまだこの「チェブラーシカ」プロジェクトは続いていきます。四話終えるまでにあと何ヵ月かかるかしら…まあ気長にお付き合いいただければ幸いです。
次回は、「ミッフィーのぼうけん」英語ディクテーション、4月1日分をお送りいたします。
それでは、またお会いしましょう。