かあさんは雨女

語学と育児、その他いろいろ。

チェブラーシカの名前の秘密。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ その①〜

こんにちは。

生後11ヵ月になりました我が娘・おタマ、最近はおしゃべりが盛んです。

ごにょごにょ」「ぷぎゃ」「てぃこんてぃこん」と、色んな発音ができるようになってまいりました。こちらも負けじと「ごにょ!ごにょごにょ!?」とお返事し、会話を楽しんでおります。

娘がいちばん最初に発声できるようになった音が「パパパ」、その後「マンマ」「ダダダ」「ナンナン」と続き、最近はガ行やカ行の音も組み合わせて複雑な発声ができるようになったようです。

 

おタマの発声を言語学的に分析すると、調音点(音を出す部位)が唇→歯茎→軟口蓋(喉の手前)と口の奥へ向かっていき、調音法(音の出し方)も閉鎖音(破裂音ともいいます)から鼻音へと、複雑になっていっております。こういう言語獲得のプロセスを目の当たりにするのは、語学オタクとしてまことに楽しいものです。

「パパ」が「ママ」の発声より先だった悔しさも、「まあ鼻音より閉鎖音の方が発声しやすいしね…」と納得することができるわけです。笑。

 

さて、のっけからマニアックな話をしてしまいましたが、前回の続き。

チェブラーシカЧебурашка)のアニメを使った学習を進めてまいります。

私はDVDを買いましたが、YouTubeでも観ることができるので、ロシア語を学習中の方は参考にしていただければ。

著作権の問題があるのでリンクは貼りませんが、Чебурашкаで動画検索すればヒットするはずです)

 

今回はDVD収録順に、最初の作品"Крокодил Гена"(1969年製作、邦題「ワニのゲーナ」)のスクリプトを日本語に訳し、解説していきます。

ただ、私は翻訳の専門家ではなく、ロシア語力も中級にさしかかったレベルなので、わからないところがあったり、間違った訳をしたりといったこともあるかと思います。そのような場合は、コメントでご指摘をいただけるとありがたいです。

ちなみに、スクリプトインターネットで見つけたものを使用しますが、編集が少し違うためか、ところどころ日本で販売されているDVDとは異なる箇所があります。わかるものは頑張って聴き取ってみますが、わからなければ上記スクリプトをもとに書いていきますので、DVDの内容と違っているところはご容赦ください。

 

では、始めてみましょう。ロシア語原文と口語訳は青字で書いていきます。

 

 

まず、冒頭のシーン。チェブラーシカの記念すべき初登場シーンですね。舞台は野菜や果物を扱うお店。見切れていますが、看板には"ОВОЩИ-ФРУКТЫ"(野菜・果物)の文字が。

果物屋の主人、オレンジが詰められた箱を次々と開けていくと、中からとつぜん奇妙な生き物が現れます。

 

主人:Оранжес... апельсины.oranges… オレンジか。)

Опять чебурахнулся. Чебурашка какой!

(またばったり倒れた。まったく、(君は)チェブラーシカだな! )

Что же мне с тобой делать?(さあ、どうしようか?)

チェブラーシカ Не знаю.(わからない。)

[Закрыто. Ушёл в зоопарк.](閉まっています。動物園へ行っています。) 

 

オレンジに紛れて、なぜか箱の中に入り込んでいた謎の生き物。何度起こしてもフラフラ、バッタリと倒れてしまうその生き物に、主人は「ばったり倒れ屋さん」という意味のチェブラーシカという名前をつけます。

ところで、この「ばったり倒れる」という言葉。чебурахнулся(チェブラフヌールスャ)、過去形になっているので原形に戻すと"чебурахнуться"(チェブラフヌーッツァ)となりましょうか。気になったので辞書を引いてみましたが、載っていませんでした。ウェブで調べても、чебурахнутьсяという動詞は「チェブラーシカの映画に出てくる語」としかヒットせず、うーん…どういう意味だ? ひょっとして、造語? と、のっけからつまずいてしまいました。

 

あんまり気になったので、大学時代に知り合ったロシア人(日本語ぺらぺら!)の友人に連絡して聞いてみたところ、「オノマトペ的な感覚としてはわかるけど、日常的に使う語ではない」とのこと。

うーん、なるほど。「ちぇぶらふぬーるしゃ!」という響きが、なんかズコーっとすっ転ぶような感じに聞こえるのかな。わかるような、わからないような…。オノマトペの感覚って、日本語もそうですが、ネイティブじゃないとなかなかつかめなかったりしますものね。

 

というわけで、チェブラーシカ(長いので、以下「チェブ」と表記します)の名前の秘密がわかったところで、次です。

 

主人のせりふ"Что же мне с тобой делать?"、жеは直前の語を強調するはたらき。「いったい何をしようか」というニュアンスでしょうか。

мне с тобойは「君と私」、мнеがなぜか与格になっていて、動詞делатьが不定形になっているのがよくわかりませんが、「これからどうしようか…」と、チェブと一緒に困ってあげている主人の優しさがにじみ出たせりふのように思います。

最後の立て札の言葉"Ушёл в зоопарк."、ушёлは「去る」という意味の動詞уйтиの過去形で「動物園に行っているので、今はいません」となるわけですね。

 

とりあえずチェブの居場所を探しに、動物園へとやって来た二人。守衛さんに「オレンジ」と書いた紙を渡し(それで事情がわかるのか…?)、チェブと一緒に動物園で調べてもらいます。

 

主人:Вот!(ほら!と紙を渡す) 

守衛:Не... зтот не пойдёт - неизвестный науке зверь.(いや…これは、うまくいかない。なに科の動物かわからないんだ。)

Не знают, куда его посадить.(どこに入れたらいいのか、わからない。)

 

この"зтот не пойдёт"、пойдётの不定形пойтиは「歩き出す、動き出す」という意味ですが、どうもコトがうまく運ばない、という意味だと思われます。

неизвестныйは、「有名な」という意味のизвестныйに否定の接頭辞неがついて「知られていない」の意味。наукеは「科学」という意味のнаукаの前置格?ですが、「どの科に分類するか」くらいの意味でしょうか。チェブちゃんは一体どういう種類の動物なのか、動物園でもわからなかったのですね。

"куда его посадить"、посадитьは「座らせる」という意味の語で、「チェブをどの檻に入れたらいいか」ということですね。辞書を引くと、посадить в тюрьмуで「監獄に入れる」という意味になるんだとか。

 

動物園に入れなかったチェブ(このときの悲しそうな表情といったら!)、今度は主人に連れられて、ディスカウントショップ(看板には"УЦЕНЕННЫЕ ТОВАРЫ"「ディスカウント商品」の文字)へ。

 

ディスカウントショップ店長:Мне нравится этот зверь.(この動物、気に入ったよ。)

Он похож на бракованную игрушку.(捨てられたオモチャみたいだ。)

Будешь работать у нас - стоять в витрине привлекать внимание прохожих. Понятно?

(君は僕たちのところで働くんだ。ショーウインドウに立って、通行人の注意をひきつけるんだよ。)

チェブ:Да, понятно. А где я буду жить?(わかった。で、僕はどこに住むの?)

店長:Жить?(住む?)

チェブ:Да.(うん。)

店長:Да, хотя бы здесь.(そうだな、せめて、ここでも。(電話ボックスを指す))

Это и будет твой так сказать дом. Понятно?(ここが君の、いわゆる、家になるんだ。わかった?)

チェブ:угу.(うん。)

 

このディスカウントショップ(字幕では「リサイクルショップ」)の店長、チェブのことを「気に入った」と言っておきながら、「捨てられたオモチャみたい」と言い放ったり電話ボックスに住まわせたりと、ひどい態度です。ショーウインドウに立って…って、マスコットじゃないんだから。ぷんぷん!

 

と怒っても仕方ないので、気を取り直して解説。

 

мне нравитсяは「私は〜が気に入った」、基本の構文ですね。

похожは形容詞похожий(似ている)の短語尾男性形。на+対格で、「〜に似ている」となります。

бракованнуюはбракованный(拒絶された、除外された)の対格形ですね。チェブちゃん、こんなにかわいいのに、ここではB品のオモチャ扱いです。

будешь работатьは未来形。бытьの後に動詞不定形をつなげる形ですね。

стоять в витринеは「ショーウインドウに立つ。」витринеはвитрина(ショーウインドウ)の前置格です。

привлекать внимание прохожихで「通行人の注意を惹く」。прохожихはпрохожий「通行人」の複数生格。名詞ですが形容詞と同じ形なので、形容詞と同じ格変化をします。

  

ここで、 где я буду жить?(僕はどこに住むの?)というチェブの問いに対してхотя бы здесь.と答える店長。хотя быは「せめて、少なくとも」という意味の成句です。「まあ、これくらいでいいだろう」という店長のいい加減な考えがあらわれたせりふではないかと思います。だって、電話ボックスですものね。

次のせりふより"твой так сказать дом"、так сказатьは「いわゆる、言うなれば」というような意味なので、「これが君の、いわゆる、家みたいなものだ」とお茶をにごすような言い方になっています。

 

こんな扱いを受けても、健気にうなずいてみせるチェブ。

一体、これからどうなっちゃうの…?

次回、いよいよ本作の主人公「ワニのゲーナ」が登場!

 

というわけで、カメのようなゆったりペースですが、今日はこのへんで。本作は20分ほどの短い作品なので、少しずつゆったりと、しかし確実に、完走めざして頑張ってまいります。

では、また。