かあさんは雨女

語学と育児、その他いろいろ。

日本人の働き方のヤバさ、公立学校教員の視点から。〜その②〜

こんにちは。

さっそく昨日の記事の続きを…といいたいところですが、とんでもないニュースを発見してしまったので、こちらを先に言わせてください。

 

夏休み16日に?母親からは賛否 | 2017/7/15(土) 19:43 - Yahoo!ニュース

 

〈以下、記事からの引用〉

吉田町教委の教育改革…町立小中学校の教員の多忙化を解消し、授業の準備時間などを確保することで質の高い教育を提供するのが狙い。夏休みを中心に長期休業を大幅に減らして授業日数を増やし、1日当たりの授業時間数を減らすのが特徴。2017年度の夏休みは24日だが、18年度は16日程度に短縮する方向で検討を始めた。

 

えーっと、夏休みを大幅に減らし、授業を増やすという動きだそうです。

まずこのニュースを見たとき、私は「うわぁ…更に先生が忙しくなるのか…」と暗澹たる気持ちになったのですが、本文には「教員の多忙化を解消(略)するのが狙い」とあります。

 

まったくもって意味不明です。

 

授業のない夏休み期間は、教員にとって、定時で帰れる数少ないチャンスです。

授業がないことで、昼間の時間を使ってゆっくりと書類仕事を片付けたり、普段できない教材研究をしたり、研修を受けに行ったりと、変な言い方ですが、勤務時間を使って仕事することができるのです。イレギュラーな生徒指導案件(生徒のケンカとか、いじめとか)が勃発する心配もありません。夏休みバンザイ、です。授業期間中には取得しづらい有給休暇を取れるチャンスでもあります。

それなのに、これまで夏休みだった期間に授業を詰め込むとなると、上に書いたような仕事をまた勤務時間外にやらねばならないことになります。教員の長時間労働を助長する施策に他なりません。

 

様々な事情で夏休みを縮める必要があるのなら、検討することは結構ですが、そこにもっともらしく「教員の負担軽減」などとウソっぱちを書かないでいただきたいものです。

 

 

さて、前置きが長くなりました。

日本の教員の働き方のヤバさについて、話をしています。

昨日は、授業準備以外にしなければならない業務の多さについて語りました。今日は、部活動と教員の待遇についての話、そしてこのメチャクチャな現状を打開するためのハチャメチャな解決策を示してみます。

 

②休日が部活動や地域の奉仕活動で潰される

 

教員のお仕事の中には、昨日書いた様々な業務とは別に、言わずと知れた部活動がありますね。この部活動、平日は18時頃(夏季)までやることが普通です。試合前になると、延長して18時30分終了になったりもします。教員の勤務終了時間は16時45分なので、部活動の監督をしているとそれだけで時間外労働になっちゃうわけですが、特に手当は出ません。

手当が出ないなら監督する必要ないじゃないか…と思われるかもしれませんが、部活動中に生徒が事故やケガ、トラブルなどに遭った場合、顧問が監督責任を問われます。実際には、部活をしている生徒を放っておいて職員室で仕事をしている先生も多いですが、私は自分の監督下にいる生徒がケガをしたり、いじめが発生したりするのが怖くて、常に部活に張り付いていました。ですが、これも教員による自主的な行動とみなされ、勤務にはあたらないわけです。責任が発生するのに、勤務ではない。頭がこんがらがってきます。

 

話がそれましたが、休日の部活について。休日に実施する部活動については「部活動手当」がつきます。なーんだ、お給料出るんだ…と安心してはいけません。これは自治体によりますが、この部活動手当には上限があります。だいたい3000円くらいのところが多いようで、昨年12月に「上限を3600円にする」というニュースが出て話題になりました。

手当が増えて嬉しい? とんでもないです。これは、「1日に、どれだけ長く働いても3600円しか出さない」ということなのです。部活動を1日中やったり、生徒を試合に連れていったりする場合、朝から晩まで12時間つきっきりということもままありますが、こういう日の場合、時給300円になる計算です。雀の涙どころか、ミジンコの涙くらいの額ですね。最低賃金などどこ吹く風です。

 

こういった、いわゆる「ブラック部活」問題に対しては、「部活顧問を拒否できる権利を!」という署名運動(クリックすると署名サイトに飛びます。詳しくは後述)があったり、「休日には部活をやらない」という考え方が広まってきたりしています。嬉しいことです。ただ、それでもまだ、保護者からの要望があったり、これまでの慣例を破れないなどの理由で、多くの教員がこの問題に悩まされています。

 

「ブラック部活」解決策の一つとして、長年実施されている「外部コーチ制」や「複数顧問制」というものもあります。文字通り、部活を専門にみてくれるコーチを配属したり、各部活に顧問を複数配置したりして、顧問の負担を軽減しようというものです。

しかし実際には、こういった制度が形骸化してしまっている現実があります。私が配属された中学校で、上記の制度を2つとも採用しているところがありましたが、実際には「外部コーチが、教員に部活に来ることを強制する」「複数顧問がいても、片方の顧問が自主的にずっと部活に参加しているため、(特に上下関係があったりすると)もう片方の顧問も休みづらい」「逆に、一切部活に来ない顧問がいて、もう片方の顧問が負担をすべて担わざるを得ない」など、いびつな状況が発生していました。特に外部コーチ制は、アルバイト扱いで勤務可能日数にも上限があり、つまるところ待遇が悪いため、ボランティア感覚で来ている暇なおじさんみたいなコーチばかり集まってしまい(失礼…まじめにやっている人もいますが)優秀な人材が集まり辛いというのが実情のようです。まあ、これも自治体によるでしょうけれど。

 

この他にも、地域でお祭りがあれば見回りをし、夏休みには夜間パトロール、地域の古紙回収事業への参加など、無償で労働を求められることがとても多く、こういったことに休日をどんどん潰されていきます。

 

③上記のように仕事量が多いにもかかわらず、残業代はゼロ

 

はい。ここまで、教員の重〜い業務負担について書きました。最後にお給料の話をします。

結論から言うと、教員に残業代はありません。どれだけ夜遅くまで残って働いても、基本的には、8時15分から16時45分までのお給料しか出ません。

 

「基本的には」と書いたのは、例外があるからです。教育公務員には、「教職調整額」という特殊手当があります。かいつまんで言うと、教員は特殊なお仕事で、例外的に残業することがあるから、あらかじめ基本給に上乗せして支払われる手当です。

 

その額は、基本給の4%。

 

繰り返します。4%です。

1日の勤務時間に換算すると、18.6分

これ以上の手当は、支払われることがありません。

つまり、いくら超過勤務があっても、教員は17時4分には帰れるだろうという前提のもとで、決められた制度です。この18.6分分の調整額を支払うことで、いくら残業しても、教員の労働力は定額使い放題。これ以上のお給料が支払われなくても「自主的に」遅くまで残って仕事をしてくれる、とっても便利な存在だと思われているわけです。

 

もうひとつ付け加えると、上記の「教職調整額」については、その対象となる時間外労働の内容が限定されています。

以下、中央教育審議会の文書(クリックすると全文が見られます)より引用します。

 

①教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。

②教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

 

つまり、

1、実習や修学旅行などの特別な行事

2、職員会議

3、非常災害や緊急事態

 

これ以外の時間外勤務は、してはならない、命じてはならないと、文部科学省が明記しているのです。

ですが、これまでに書いてきた通り、実際に発生する時間外労働はほとんど上記以外のものです。日本の公立学校教員たちは、このように想定されていない時間外労働を、業務命令ではなく自主的に、好きこのんでやっているから、手当を支払うに値しないと判断されているのです。

 

以上、2回に分けて書いてきました。日本の公立学校の教員の働き方のヤバさについて、少しでも知っていただけたなら幸いです。

自分の経験について、勢いに任せてずいぶん赤裸々に書いてしまいました。公務員の守秘義務違反にはあたらないと思うのですが、私はまだ在職中ですので、バレるとまずいかもしれませんね。わはは。まあ本当にあったことを正直に書いただけですので、悔いはありません。

 

さて、ここで終わってしまうと、ただの一教員のグチに終わってしまうので、現状を打開するための解決策を以下に提示しておきます。

 

この「教員の長時間労働」を解決する手段。

ものすごく極端な、それでいてシンプルな手段をここに提示します。

 

それは、教員が、勤務時間におさまらない仕事を一切やらないこと

 

「あいつら好きで居残って残業しているんだから、残業代払う必要なんてアリマセーン」と言われるのなら、もう本当に残業なんかせずに、16時45分にみんな帰っちゃえばいいんです。

 

部活? そんなの知りません。業務命令じゃないんだし。

アンケート? 知りません。こなせない量の仕事を振るのが悪いんだから。

授業? 生徒が帰ったあとの45分間しか、準備に充てませんよ。ろくに準備ができなくたって、勤務時間が終われば家に帰ります。生徒の前で教科書をただ読むだけの授業にすれば、準備なんかいらないんだし、ね。

 

こうやってみんなが、与えられた時間でできる仕事しかしなくなれば、当然のように、学校は荒れます。授業の質も下がり、日本の子どもたちの学力も下がりますね。何とかしなければならない。ここで、行政がまともな判断をするのであれば、教員の待遇を上げなければならない、ということになるわけです。教員や事務職員の数を増やし、残業をしたときはきちんと手当をつけ、勤務時間内だけでも充分なパフォーマンスが出せるように制度を変えていかなければならない。

 

ただ、太字で書いてしまったのですが、これを実際にしたところで、行政がまともな判断をしてくれるかどうかがわかりません。そして、いわゆる「世間様」がこの現状を見て「教員がまともな仕事をしていない!」「給料泥棒!」というようなバッシングをしてしまいかねない(というか、現時点でもこういった言葉が頻繁に聞かれます。悲しいことです)。ここが、日本の「働き方」に対する考え方の歪みだと思うのです。

 

そして何より、全国の教員たちが上に書いたような強硬手段に出ることができないのは、目の前の生徒を放っておけないからだと思うのです。自分たちの待遇改善を求めて行動を起こせば、その皺寄せは生徒が被ることになる。自分がいま担当している生徒たちに、どうやって賢くなってもらうか、生きる力・考える力をつけて社会に出てもらうか、それだけを考えて教員になったのです(そうでない人も、いるかもしれませんが…)。だから、勤務時間外だろうが、無茶なスケジュールだろうが、いい授業をつくるために毎日遅くまで残って、働いているのです。

 

私は、このような状況のことを「生徒を人質にとられている」と表現します。

 

そして、その生徒のために無茶な働き方をすること、朝早くから夜遅くまで休みもなく働くことが「美しい」とされる世の中。「先生なら、それくらいして当たり前でしょ」。よく言われる言葉です。ですが、その「当たり前」のために、多くの教員が毎月100時間を超える時間外労働を余儀なくされ、私生活を犠牲にせねばならず、ひいては精神疾患や過労死に追い込まれているのが現状なのです。

 

「先生がきちんと働けていないのなら、待遇を上げなければならない」。

 

世界では当たり前の考え方ですが、これが日本ではあまり共有されていないこと。

このことが、最も大きな問題だといえるかもしれません。

 

さて、夢も希望もないようなことをつらつらと書いてきましたが、嬉しい動きもあります。

全国の教員たちが立ち上がって、待遇改善に声を上げ始めているのです。

2つの署名活動があります。私も微力ながら参加していますが、以下にリンクを貼っておきます。

 

部活問題 対策プロジェクト

「教員にも、部活動顧問に参加しない権利を」という趣旨のプロジェクト。教員の負担だけでなく、強制的に入部させられる生徒側の負担にもスポットを当てています。

 

教職員の働き方改革推進 プロジェクト · Change.org

こちらは「教職員の時間外労働に上限規制を設けてほしい」という趣旨のものです。

 

こういった動きがあるのは、本当に喜ばしいことですし、忙しいなかでこのようなプロジェクトを立ち上げてくださった先生がおられるという事実に、本当に頭が下がる思いです。

もし、このブログを読んでくださっているあなたが、この記事に少しでも共感してくださったなら、上記プロジェクトにも応援の手を差し伸べていただければと思います。

 

たいへん長くなりましたが、教員の働き方について、私が思うことを述べてきました。

 

一応ことわっておきますが、これまでに書いた学校現場での事例はあくまで私の経験にもとづく描写です。学校によって、自治体によって、地域によって学校の方針は変わってきますので、「こんな学校ばかりじゃないよ」という意見があれば、それはもっともだと思います。ただ、こういう現場もあるんだということを、わかっていただきたかったのです。

 

さて、ものすごく真面目な話になっちゃいましたが、次回からはまた、お気楽にロシア語学習の話をしていきたいと思います。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

 

では、またお会いしましょう。